三津田信三『のぞきめ』を読んで。

困ったことになった。
読書感想文という体裁上、ここに書く記事は飽くまでも"感想文"でなければならないわけだが、しかし、それに反してと言うか……このブログを書く上での自分ルールとして"出来る限りネタバレはしない"という制約を自身に課している所為で『なあんか、感想文と言うよりもドチラかと言えば紹介文っぽいよなあ』みたいな記事が多くなってしまっている……。イヤマア、別にそれは正直構わないんだけれども、それよりも他に困ったことが起こっているんだよ。
これは前回、前々回にも冒頭で話したがね、私はミステリー小説に関する感想文は書きたくないんだよ。
何を話してもネタバレになりかねないからね。下手をしたら、あらすじを語っただけで察しがついてしまう人も中には居るかもしれない。
ゆえにこれまで、ミステリー小説の感想文はなるべく書かないようにしていたんだ。

だがしかし、だ。

この三津田信三『のぞきめ』はまさかのミステリーなんだよね。
購入したときは「ホラーと本格ミステリーの融合だなんて謳っているけれども、要は『ミステリー要素を孕んだ民俗学ホラー』だろう?」なんて思っていたので、この感想文も難なく書けるだろうと高を括っていたんだけれども……それがトコロガドッコイのスットコドッコイだったというわけなんだよ。

あらすじは……マア、そうだね。二部構成になっているんだが、一部目の話だけにしておこうかな。
「覗き目の怪」のあらすじだ。

山奥の貸別荘地でアルバイトをしていた大学生四人は、別荘の管理人から「近寄るな」と固く禁じられていた廃村に興味本位で這入り込んでしまう。そこはかつて『弔い村』という異名で恐れられた曰く付きの村だった。"何か"に見られている──視線を感じ取った彼らは直ぐにその場から逃げ出すが「のぞきめ」と呼ばれる怪異は次々と大学生たちに襲いかかり──。

みたいな感じだ。
イヤ、怖いよ……。
序盤から中盤にかけてのホラー成分は本当に色が濃すぎて、小心者の私なんかは風呂に入ることすらマトモに出来なくなってしまったくらいだった。民俗学ホラーって、こんなに怖くて良いものなのかと……。
隙間とか視線系はダメだよ……先生……日常生活に支障が出る系はダメだって……。
「見つめ合うーーーッ、視線のレーザァービームでェーーーッ!」
なんて郷ひろみ氏のモノマネをしながらじゃあないと風呂に入れなくなる(現になった)。
ご丁寧に「障りがあったとしても、それは自ら好んで本書を読んだ"あなた"の責任です。何かに見られている──そんな風に感じた時は一旦本書を閉じてください」なんて注意書きまで添えてあってね……。趣味が悪いよまったく。
『作者自身が怪異譚の蒐集をしている際に出会った二つの怪異譚とその関係』という設定も、リアル方面へと話を引き寄せるための技術として巧いな、と……ここまでは単純にゾワゾワとするホラーなんだがね、後半に差し掛かると見える景色は様変わりして、ミステリーの色がかなり濃くなってくる。
ウーン……コッチに話が移行してからは若干消化不良と言うか……若干、無理矢理感が強いような気がしなくもなかったけれども、マア、それに関しては"そういうもの"として読めば面白く読める小説だろう。モチロン、私も面白く読んだしね。

それよりも何よりも、矢張り、特筆すべきは作者の民俗学への造詣の深さだろう。
民俗学にも、その中でジャンルや方向性があるだろうし、誠に恥ずかしながら私はソチラの学問に関してはまったくの無知なので(ドチラの学問もだが)『この人の知識が凄い』とは言いづらいんだけれども……それでも偶に出てくる民俗学的知識は、読みながら「へえ……そんな文化が根付いていた地方があるのか」なんて声に出して言ってしまったくらいに面白く、また、強く興味の惹かれるものだった。

そして、この小説が果たして『ホラー』として結末を迎えるのか、それとも『ミステリー』として結末を迎えるのか。それは是非、読んで目で見て確かめてみて頂きたい。

ちなみに、この『のぞきめ』という作品……映画化もされているらしいね。元AKB48板野友美女史がヒロイン(?)を務めているそうだ。
コチラの評判は……マア、これも自分の目で見てみなければわからないけれど、あまり評判は芳しくない様子だね。小説ならではの怖さっていうやつだったのかな。ハハン。

次は刀城言耶シリーズ『厭魅の如き憑くもの』を買おうかな。