夢野久作『笑う唖女』を読んで。


※ネタバレは含みません。


やあやあ諸君、しばらくぶり……ではないね。アハ。そう、そうだよ。またしても夢野久作なんだ。ハハハ……いい加減キチガイ地獄に堕ちてしまいそうだよ。アハアハ。
今回はね、仲のイイ友人に勧められた『笑う唖女』を読んでみたのだけれど、これがまた夢野先生お得意のキチガイ話でね。勧めてくれた友人からも、差別表現が多いからと注意があったくらいで……今の時代にこんなものを書く作家が居たら、評価も得られず、また、過激派の皆々様が鬼の首を取ったような顔をして叩き出すだろう事が容易に想像出来るね。ハハハ……時代が変われば読者も変わるということなのだろうさ。読む者を選ぶと言うのかな。イヤ、なに。前回話した『ドグラ・マグラ』みたいな、複雑怪奇を極めたような話しでは、まあ、ないんだよ。短編小説だからね。一時間もかからず読みきれてしまうし、内容もオチも理解しやすい。しかし……ゆえに“面白い本”だったかと訊かれれば、どうも言葉に詰まってしまうというのが、本当の本音なんだよ。でも、勘違いをしちゃあイケナイよ。いいかい。これは、内容が面白くないだとか、そういう事を言っているのではなくてね。そう、いささか教訓めいたものを感じる話だったという……読んだ後に残ったのが『アア、面白かった』と言った感想ではなく、『フウム、なるほど』だったという話だ。ハハ。一時の気の迷いで、気の狂いで、過ちなんかを犯すものではないね。
ところで、作中に登場するキチガイろう者の花子チャン。ああ、これは他に言いようがないんだよ。作内で“キチガイのオシヤン”なんて言われているものだからね……聾唖者と言わないだけイイと大目に見てほしいところだ。うん、そうそう花子チャン。「エベエベエベ……ケエケエケエ……キキキキッ」と、笑っているのか泣いているのか……文字で見ると、不気味と言うか、どう考えても頭がおかしいように思えるのだけれど……実際は明らかに何かを伝えようとしているんだよ。どう汲み取るかは読者次第だろうけれど、発狂している風には見えなかったね、個人的には。色情狂なのは、まあ……そうなんだろうけれど、それを言うのならば正気の沙汰ではないのは新郎のほうだろうさ。これは表現の問題だろうけれど……草花にも発情するって……花チャンなんかよりもよっぽど深刻な色狂だろうて。まあ、童貞を貫くことがステータスだった時代なのだから溜まった膿の量はそれこそトンデモナイものだったのだろうけれどね……しかし、童貞はステータスだ、なんて聞いたら、現代じゃ喜ぶ人が多いんじゃあないかな、なんて思ったもんだよ。アハアハ。

サテ、どうだろう。コンナ結末を迎えた物語を見て、陰鬱とした気分になる者と、その逆に、胸がスっとする者と、それ以外。少なくとも二種類以上の人間がいるだろう……これは性別の違いもあるのかも知らんけれどね。
ちなみに言わずもがなとは思うけれど、僕はどちらかと言えば、いや……どちらと言わずとも、最悪の後味だったと言う他ないね。